運動麻痺とは「随意的に筋収縮が起こせない状態」です。
何故、筋収縮が起こせないのか、どのような原因があるのか、
効果器(筋肉)、脊髄、脳幹、大脳半球レベルに階層を分けて検討していきたいと思います。
錐体路が障害しているから筋収縮ができない、とだけ思っていた方はぜひご一読ください。
その1 運動麻痺があった際に確認すべきこと〜効果器(筋肉)や脊髄〜
→「運動麻痺のリハビリに必要な知識」
その2 運動麻痺があった際に確認すべきこと〜脳幹〜
→「運動麻痺のリハビリに必要な知識2〜脳幹〜」
中枢神経系の最も高次な領域であり、
知覚・認知・運動機能が備わっており前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉と4つに区分されています。
大まかに前頭葉は運動や運動に至る意思決定などを、頭頂葉は体性感覚、空間情報の認知を、
側頭葉は聴覚、物事の意味・解釈や記憶を、後頭葉は視覚を司っており、これらは双方向にシナプスしています。
頭頂葉、側頭葉、後頭葉などで現状の知覚をして認知し、前頭葉がこれらの情報を基に行動の指針を立てたり、
実際に運動指令を末梢に送ったりしているので、随意運動に問題があった場合、
原因は一次運動野のみならずこれらのどこか一部に損傷があった場合でも
及ぼす可能性があるということを覚えておく必要があります。
一次運動野とは前頭葉の中心前回に位置しており、随意運動を担う重要な部分です。
皮質脊髄路とは前回のコラムでも紹介しましたが、四肢の末梢部の随意運動を引き起こす神経伝導路です。
学校で学んだ記憶がありますでしょうか、
一般的に一次運動野と皮質脊髄路の関係性は上図のように示されて
一次運動野→皮質脊髄路というセットで認識している場合が多いかと思います。
そうすると一次運動野に損傷があるとイコール皮質脊髄路の損傷となり
随意運動が困難という考えになりますが実際は異なります。
皮質脊髄路の中で一次運動野が占める割合はおよそ50%です。
その他は補足運動野、運動前野、更には一次感覚野からもニューロンを受けており、
様々な脳の局在から皮質脊髄路にシナプスしています。
皮質脊髄路は一次運動野以外からも入力されている、
一次運動野が損傷があった場合でも補足運動野、運動前野、一次感覚野から皮質脊髄路を働かせるチャンスがある。
補足運動野と運動前野の役割は
一次運動野から最終的に運動指令を末梢に伝える前に、どの様に運動を行うか計画を立てる部分です。
補足運動野は大脳基底核と連携し、運動を行う際にどの筋肉をどんな順番で働かせるか
運動前野は小脳と連携し、運動を行う際にどの程度の速度で、どのくらいの正確性で働かせるか
に寄与しています。
また、補足運動野と運動前野は一次運動野、皮質脊髄路にシナプスしますが、
それ以外にも直接脊髄にシナプスするルートがあり、皮質脊髄路を介さずに
運動を制御できることが示唆されています。
動作のぎこちなさや過剰な出力を認める場合は補足運動野ー大脳基底核の損傷を疑う
動作のスピードが不安定、正確性を欠く場合は小脳ー運動前野の損傷を疑う
皮質脊髄路を介さずに補足運動野や運動前野から運動を起こすことができるチャンスがある
我々が活動を行うためには知覚・認知・運動の過程が必要です。
認知過程の障害である高次脳機能障害によっても「随意的に筋収縮が起こせない場合」があるので幾つか紹介します。
・身体失認
自己の身体に対する空間的な認知の障害です。
右半球損傷で起こり易く、病態失認や意識された片側身体失認など幾つかに分類され、
臨床ではベッドから起き上がる際に麻痺側上肢が残っていたり、
食事の際に使用しようとせずぶら下がったままとなっている場面等が見受けられます。
・失行
運動可能であるにもかかわらず、合目的な運動が出来ない状態です。
左半球損傷で起こりやすく、肢節運動失行と観念運動失行、観念失行の3つに分類され、
臨床ではボタンをうまくとめられなかったり、模倣ができなかったり、
物品の使用が困難になってしまう場面等が見受けられます。
障害された半球や部位を考慮して可能性のある高次脳機能障害の有無はからなずチェックする
机上でのチェックのみでは無く、生活場面で影響が出ていないかも注意深く観察する
運動麻痺への介入において大脳半球レベルで考えておくことは
・様々な脳の領野から運動を引き起こすチャンスがある、例えば一次運動野、補足運動野、一次感覚野など
・運動の質(ぎこちなさ、不安定さ)を認める場合は皮質脊髄路以外の下降性伝導路の要素を考慮する
・高次脳機能の影響を考える
のこれら3つのことが重要となります。
おさらいで末梢〜脳幹までの考慮すべきことも再度紹介します。
【効果器〜脊髄レベル】
・目的動作に必要な筋の変性(萎縮、弛緩など)やアライメントの異常がないか確認し、解決できるものは介入する、
関節の変性、アライメント異常に関しても同様である→IAIRのB-class therapistにて習得可能
・反射がスムーズに行えるように末梢の感覚受容器が適切に情報を受け取れる状態にしておく必要がある。
→CCRAのbasic, advanceコースにて習得可能
【脳幹レベル】
・手指などの末梢と肩や股関節などの近位部では神経伝導路が異なるため
どちらかが重度の障害でも、もう一方はコントロールできるチャンスがある
・動作、つまり随意運動がうまく行えない時はそれ自体に問題は少なく、
姿勢コントロールが制御できていないからという場合もある
「運動麻痺」に対して介入を行う場合、これらのことを考えて介入できると、包括的に効果的な介入が行えるでしょう。
運動麻痺シリーズ三部作お読み頂きありがとうございました。
導入部分として大枠での説明だったので、
また今後、より正確に脳の領域やシステムの話や実際の介入方法についても紹介していきます。
CCRA代表 福田俊樹
参考資料:神経局在診断、カンデル神経科学、モーターコントロール