運動麻痺とは「随意的に筋収縮が起こせない状態」です。
何故、筋収縮が起こせないのか、どのような原因があるのか、
効果器(筋肉)、脊髄、脳幹、大脳半球レベルに階層を分けて検討していきたいと思います。
錐体路が障害しているから筋収縮ができない、とだけ思っていた方はぜひご一読ください。
前回は効果器(筋肉)〜脊髄レベルで気をつけることを紹介しました。
→「運動麻痺のリハビリに必要な知識」
そもそも脳幹とは。
脊髄より上(頭側)にあり、大脳半球より下(尾側)にあります。
延髄、橋、中脳に分類され、特徴としては以下が挙げられます。
・12個の脳神経のうち、10個が脳幹から出ており、頭部と頸部の器官(目、鼻、口など)を制御している
・大脳半球と末梢部を結ぶ神経伝導路が全て走行している。また脳幹でシナプスしているものもある
・自律神経系の規制中枢となっている(呼吸や覚醒など)
全ての神経伝導路が走行している脳幹ですが、神経伝導路はどのようなものがあるか整理してみましょう。
上行性と下降性に分かれ、筋収縮を出すための運動系、つまり脳(中枢)から末梢に投射する(命令を出す)ものは下降性になります。
下降性伝導路は外側グループと内側グループの2つに分類され
外側グループ(主に遠位筋へ):皮質脊髄路、赤核脊髄路
内側グループ(体幹や近位筋へ):網様体脊髄路、前庭脊髄路、視蓋脊髄路
いわゆる運動麻痺は脳出血や脳梗塞によって、皮質脊髄路が通る内包後脚などの障害によって起こる現象です。
手指など末梢部の活動と肩関節や股関節など近位部活動では主となる神経伝導路が異なる。
つまり皮質脊髄路のダメージが大きくても肩関節や股関節のコントロールは獲得できる可能性がある。
先に、神経伝導路の紹介をしましたが、
内側グループは姿勢コントロールを、外側グループは随意運動を制御しているとも言えます。
外側グループの障害で随意運動が行えないことはその通りですが、
内側グループの障害でも随意運動が行いづらい場合もあります。
例えばクワで畑を耕すことを想像してみましょう。
土台の地面が安定していると、しっかりと足を踏ん張ってクワを振り下ろすことができます。
しかし、地面がぬかるんでいうと、足を踏ん張れず、クワを大きく動かすことは難しいでしょう。
それと同じ様に、内側グループが働いて姿勢がコントロールされているからこそ、
十分に外側グループの力が発揮され、随意運動を行うことができるのです。
随意運動が十分に起こせない場合、姿勢コントロールが制御できているかも必ずチェックを行う
→CCRAbasicコースにて方法を紹介しています。
運動麻痺への介入において脳幹レベルで考えておくことは
・手指などの末梢と肩や股関節などの近位部では神経伝導路が異なるためどちらかが重度の障害でも、もう一方はコントロールできるチャンスがある
・動作、つまり随意運動がうまく行えない時はそれ自体に問題は少なく、姿勢コントロールが制御できていないからという場合もある
のこれら2つのことが重要となります。
脳画像を始め、種々の身体所見をベースに患者さんの身体の反応を見極めて介入することで可能性を広げていくことができます。
今回もお読み頂きありがとうございました。
次回はいよいよ大脳半球の視点から紹介していきます。
CCRA代表 福田俊樹
参考資料:神経局在診断、カンデル神経科学