脳卒中の運動療法の3つの原則

2020年10月03日 福田俊樹

脳卒中のリハビリの基本となる運動療法

 

様々な運動がありますが例えば立位で膝が過伸展している場合は

大腿四頭筋とハムストリングスの協調的な活動を引き出す為にスクワットを行う、

お茶碗を麻痺側上肢で把持する為にお手玉の把持・運搬動作を行うなどが挙げられます。

 

スクワットを実際に行ってみると大腿四頭筋やハムストリングスを使いますし、

お手玉を持つ動作は手のアーチを用いながら茶碗を把持する形に似た形で握り動作が行え、

かつ持ちやすく難易度が優しい練習といえます。

 

ただ、理にかなっているからといってスクワットをしよう、

お手玉の把持をしようとすることは実は急ぎすぎています。

 

今回は運動療法を行う上で必ず意識しなければならない主に3つの原則について紹介していきます。

 

筋力トレーニングの原則

一般的に運動をすると筋力の増強が図れます。

これが筋力トレーニングですがこちらがベースとなりますので、まずはこの原則をおさらいみましょう。

1.過負荷の原則
日常生活の水準以上の負荷をかけることで筋力の増強が図れます。

例えば重りをつけた状態で負荷をかけたり、

回数を増やすことで負荷をかけたり様々な負荷のかけ方があります。

 

2.漸進性の原則
過負荷と似ていますがトレーニングを続けていく上で、

徐々に負荷を高めていかないと筋力増強が図れません。

 

3.特異性の原則
状況に応じての特異的に筋力の増強が図れます。

例えば低負荷高頻度のトレーニングでは筋持久力が、

高負荷低頻度のトレーニングでは筋出力の増大に作用します。

 

4.その他の原則
継続性(継続することが重要)、全面性(局所のみでなく全身バランスよく鍛える)、

個別性(個々人の状態に合わせて行う)、意識性(意識を持って取り組む)などがあります。

 

これらトレーニングの原則は実は脳卒中後遺症に対しての運動療法にも非常に役立ちます。

ただし一般的な筋力トレーニングと違い注意することもあります。

 

過負荷の原則

脳卒中のリハビリにおいて過負荷の原則を当てはめる際には2通り考える必要があります。

1つ目は純粋に筋力トレーニングとしての運動、2つ目は中枢神経系に対しての運動です。

 

前者は主に体幹や非麻痺側下肢や体力向上のために全身に行われることが多いです。

後者の場合は麻痺側及び、麻痺側を含めた全身で行うのですが、

筋力トレーニングのイメージで力を込めて頑張って動作を行うと、

単純な筋力トレーニングとなってしまいます。

 

麻痺側にとって過負荷とは日常生活レベルよりも更に低い強度であることが殆どです。

よって力を込めての運動というよりかむしろ楽に動かせる強度が麻痺側にとって良い設定と言えます。

 

漸進性の原則

脳卒中リハビリでの運動療法は身体の動かし方を学習し、

日常生活動作に汎化できるようにしていくことが目的です。

脳が運動を学習していく為には、今回のトレーニングの原則のような幾つかの原理があるのですが、

特に漸進性の原則は重要です。

 

リハビリを行う上で本人が行うと少し難しい課題設定が運動の学習を促進します。

簡単すぎても難しすぎても上手く学習が図れません。

 

筋トレと異なる点としては、

重さを増やしたり、回数を増やしたりするような方法で負荷をかけるのではなくて、

使用する関節の数を増やす、動かす関節の可動範囲を増やす、CKCからOKCの運動様式にしていく

などの負荷が脳卒中のリハビリでは良いかと思います。

 

特異性の原則

次の場面をイメージして下さい。水が入ったバケツが目の前の床にあります。

持ち上げる時にしゃがんで持ち上げる場合と

上半身を屈めて持ち上げる場合とどこに負担がかかると思いますか?

 

 

 

前者の場合は膝に後者の場合は腰に負担がかかるかと思います。

当たり前ではありますが、

同じバケツを持ち上げる動作でも動き方が違うと使う筋肉の部位や強さに違いが出てきます。

 

脳卒中後遺症者の場合、動きのベースとなる姿勢のコントロールの崩れも出ていますので、

一般の方よりもより大きく部位や強さの違いが出る為、

運動療法を行う際は特異性をより一層厳密に捉える必要があります。

 

お茶碗動作の特異性

冒頭の例えに沿って特異性を考えてみましょう。

実際にお茶碗を持った手を作ってみて下さい。

そうすると上肢の各関節の肢位はどうなっていますか。

 

前腕は軽度回外位、手関節は尺屈と掌屈、

母指と小指が対立位になっている方が多いと思います。

 

上記の関節の動き方がお茶碗動作における特異性の一つです。

これらの動きを取り入れた練習を行うことでお茶碗を把持する動作の獲得に繋げることができます。

 

お手玉を使う場合は両掌を天井に向けた状態で非麻痺側にお手玉を持ち、

そのまま麻痺側に受け渡す、その後非麻痺側に返すという練習などが良いかもしれません。

 

立位での下肢筋コントロールの特異性

こちらは立位での過伸展に対してスクワットを行うという流れでした。

今度は立った際の膝関節の角度を考えてみましょう。

実際にご自分で立った時に膝の関節角度はどのぐらいでしょうか。

 

0度の方もいれば5度くらいの方もいらっしゃるかと思います。

ただ30度くらいの方は中々いませんよね。

 

実際に曲げていけばいくほど筋肉には負担がかかりますが、

立位保持の際に必要な筋出力はごく僅かです。

つまり、スクワットをする際には非常に狭い範囲で行うことが重要ということです。

 

加えて立位では体幹が直立位で腹筋群も背筋群も

バランスよく活動している筈ですので、このスクワット動作でも

上半身が直立位でバランス良く活動していなければいけません。

 

練習を行うとすると壁に寄りかかった状態でスクワットすると体幹の直立位がキープでき、

壁というサポートの中で下肢の微細な筋出力のコントロールを

出しやすい環境となりますので良いかもしれません。

 

まとめ

脳卒中リハビリの運動療法の原則についてお話ししました。

 

運動を行う際に使用する筋肉自体は意識しているのですが、

目標動作と同じ様な活動(求心性or遠心性)をしているのか、

同じ様な角度で動く内容なのか、動かない他の身体部位のコントロールも同じ設定なのか。

 

実際に運動療法を行う前に何の為の練習なのかを改めて確認してみると良いかもしれません。

 

お読みいただき有難うございました。

 

CCRA代表 福田俊樹