上肢のリハビリテーションで重要な評価方法

2020年09月27日 福田俊樹

脳卒中の後遺症で運動麻痺がある場合リハビリを行なっても回復に時間がかかる場所は、

と問われれば上肢が頭に思い浮かびます。

 

下肢は移動するために必須であり日々の使用量も多いのですが、

上肢の場合は非麻痺側の上肢と補助具を使うことでADLの自立が可能であり、

また現在の回復期病院のアウトカムがADLと在院日数におかれている為、

必然的に機能訓練よりも活動に対してのリハビリとなってしまう点から

どうしても麻痺側上肢のへの機能的なアプローチに使える時間は少なくなってしまいます。 

 

麻痺側上肢のリハビリを行う上では少ない時間で効果的な介入を心掛けなければなりません。

本日は麻痺側上肢、特に肩周囲の介入に必要な評価について紹介していきます。

 

介入は近位から?遠位から?

顔を洗う、箸を持つ、茶碗を支えるなど生活動作の様々な場面で肩から指先まで使用しています。

介入を行う上で遠位部の指先、近位部の肩、どちらから始めれば良いでしょうか。

 

基本的には肩から始めることが多いかと思います。

より土台(体幹)に近い所であり安定させやすいということもありますし、

より多くの種類の下行性伝導路がアクセスしているから反応を引き出しやすいというメリットがあります。

 

※ただ、臨床では末梢部の指先から介入を行なった方が改善しやすい例も一定数みられます。

これは走ることが得意、歌うことが得意など個人によって様々であるように、

指先の感覚情報処理が得意、肩の感覚情報処理が得意と患者さんによって異なるからです。

 

上肢のリハビリテーションにおける評価

介入を行うにあたり必須であるのが評価です。評価に応じて介入方法を検討することができます。

有名なテストバッテリーとしてSIAS, Brs, FMA, ARAT,STEFなどがあります。

これらで苦手な動き・項目を探し介入を行なっていきます。

 
よくあるリハビリ内容としてはタオルでテーブルを拭く運動、

ペグを用いた物品の把握・移動練習、電気刺激を用いた単関節運動などが挙げられます。

 

課題試行型アプローチでは難易度の低い課題から徐々に高い課題

(上肢下垂位での物品操作から前方挙上位での物品操作など)へとシフトしたり、

運動をイメージしつつ実際の関節運動と組み合わせたり様々な方法があります。

 

また非麻痺側の使用を制限するCI療法や

関節運動を反復して行う川平法などは一定のエビデンスが出ています。

 

これらのリハビリを一定期間行い

再度評価を行うことによって改善できたかを判断することが一般的です。

 

ただ実はもう一つ重要な評価があります。

 

介入の途中での評価

機能的な単純な関節運動を行う練習でも課題の遂行を行う練習においても

上手く出来ているかを判断する必要があります。

 

その判断は運動・課題を遂行できたかの結果と、

その過程で無理なく効率的に行えていたかのパフォーマンスの2つの面で行います。

 

テーブルの上のペッドボトルを持つという課題を例に考えてみましょう。

ペッドボトルは持てたけど肩甲骨の挙上や体幹の側屈の代償が強く起こっている時、

結果は出来ているがパフォーマンスが良くないとなり、

この場合次の課題・活動(持ったペッドボトルのキャップを開けて飲む)に

支障が出るために体幹や肩、肘などの使い方を再学習する介入が必要です。

 

代償は起こらなかったが、手指が屈曲できずに持てなかった時、

結果は良くないが肩や肘のパフォーマンスが良いということで

手指の筋活動を引き出す介入が必要となります。

 

肩のパフォーマンスの評価方法

判断の中で結果は単純に出来たか出来ないか、

つまり視診で判断できるため比較的容易です。

 

パフォーマンスに関しては視診だけで判断できない筋活動のバランスなどの

評価も必要となり、やや難しいかもしれません。

このパフォーマンスの評価、とりわけ土台となり重要な肩について掘り下げていきたいと思います。

 

2つの代表的なエリア

上肢の土台となっている肩で代表的なものは

肩甲骨と上腕骨を繋ぐ回旋筋腱板と肩甲骨と体幹を繋ぐフォースカップルの筋群です。

回旋筋腱板は肩甲骨の腹側と背側両面から上腕骨頭を覆うようにして上腕骨に付着しており、

上腕骨頭を肩甲骨関節窩に引きつけ肩甲上腕関節を安定させる役割があります。

 

フォースカップルの筋群は肩甲骨と体幹の間となる肩甲胸郭関節に作用します。

上肢の可動性を引き出すため肩甲骨は骨での連結は非常に弱いです(肩鎖関節)、

その分筋肉で安定化を図ることになるのですが

様々な方角に働く筋肉の力(フォース)が組み合わさる(カップル)ことによって釣り合いが取れています。

 

肩甲骨を上方へ引っ張る力は僧帽筋上部繊維・肩甲挙筋、

下方へ引っ張る力は僧帽筋下部繊維・前鋸筋、

内側に引っ張る力は大小菱形筋・僧帽筋中部繊維

、外側に引っ張る力は前挙筋などがあり、

これらを組み合わせることで力の釣り合いを取っています。

 

筋活動の評価における落とし穴

パフォーマンスを評価する上で上記の筋肉を触診して活動していれば良くて、

活動していなければ悪いといえば簡単そうに見えますが、実はここに落とし穴があります。

 

一度、自分の手を対側の肩甲骨背面に伸ばしてみましょう。

回旋筋腱板である棘上筋や棘下筋が触れるかと思います。

次に触れたまま、対側の腕を浮かしてみてください。

 

収縮は感じられましたか?感じなかったり思ったより弱いと感じたりした方が多いかもしれません。

基本的に生活動作に関わる単純な運動は総じて多くの筋活動を使用していません。

 

1日生活の中で何回も繰り返す行為ですので、少ない力で動作が出来るようになっています。

日常生活動作に必要な筋出力を調べた研究では、

一般的に必要な筋力は20-30%MVC(最大筋力の20-30%)程度と言われています。

 

つまり評価の対象とする筋肉は分かってはいるものの、

課題に適した活動をしているのかどうかの判断は非常に難しいということです。

 

パフォーマンスを評価するには

もちろん、経験を重ねていくとどの程度の硬さ・反応であれば

課題に適した活動が出来ているかどうかの判断は可能です。

 

ただもっと簡便に出来る方法があります、

それは介助でパフォーマンスをアシストするということです。

 

例えば回旋筋腱板の場合、

自分両手を使い上腕骨近位と肩甲骨を把持し安定感を高めるように圧縮します。

 

その状態で課題動作を行なってもらい動作が改善するのであれば

回旋筋腱板の筋活動に介入する必要があり、

動作に変化がなければ回旋筋腱板には介入する必要がないということです。

 

フォースカップルも同様です、両手で肩甲骨と胸郭を把持した上で、課題動作を行なってもらいます

(動作に合わせて上方回旋や下方回旋など動きの誘導は必要)、

動作が改善するのであれば介入の必要性あり、変化がなければ介入は不必要となります。

 

まとめ

上肢のリハビリに重要な評価についてお話ししました。

定量的な評価での介入の方向性の決定と

介入中の評価の2つが重要であるということでしたが、勿論下肢にも同じことが言えます。

 

後者の介入中の評価は介助でアシストするという方法です。

アシストするには足を前に出す時、

腕を挙げる時など動作ごとにどのような骨の動きになるのかを把握していないと、

動作を妨げてしまい評価となりません。

 

しっかりとアシストできるようになる為の練習方法として

対象部位に触れ続けるという方法があります。

 

腕を挙げるときの肩甲骨の動きの場合だと、

肩甲骨にそっと手掌面をつけた状態で相手に腕を上げてもらってください。

その時の肩甲骨の動きを確認することでアシストすることが可能になっていきます。

 

歩行中の股関節や骨盤の動きなど他の部位でももちろん可能ですので、

触れた状態で関節の動きを確認していってみてください。

頭でイメージしていたよりも異なる動きがあり驚くかもしれません。

 

お読みいただき有難うございました。

 

CCRA代表 福田俊樹