筋力低下は脳卒中の病態において、避けては通れません。
その原因として中枢性の問題や二次的な問題がありますが、
それぞれ別の病態であるためアプローチ方法も原因に合わせて、変えなければいけません。
今回は脳卒中における筋力についてとそのアプローチについて紹介していきます。
脳卒中の後遺症においては中枢神経系による影響や二次的な廃用性の影響で筋力低下が起きます。
例えば痙性による筋の拘縮や、不動化による筋の萎縮です。
筋力低下があると日常生活動作をはじめ、様々な活動の阻害因子となります。
ですので、リハビリを行う上で必ずアプローチを行う部分でもあります。
筋肉低下を起こす原因は複数あり以下のものが代表的です。
・加齢
・廃用性筋萎縮:ギプスによる固定や、長期臥床による不活動
・筋原性:筋ジストロフィーや多発筋炎
・神経筋接合部:重症筋無力症
・神経原性:脳卒中
この中で脳卒中の後遺症で考える必要があるものは
加齢、廃用性筋萎縮、神経原性となります。
加齢によって筋力低下が起きることをサルコペニア(1次性サルコペニア)と呼びます。
加齢によって、性ホルモンの減少やアポトーシス、ミトコンドリアの機能障害などが組み合わさって起こる現象です。
組織学的には筋原繊維の減少や筋繊維径の減少が起こり筋力低下を引き起こし、
主に速筋と呼ばれるタイプⅡ繊維の減少を多く認めます。
筋力低下の原因がサルコペニアか判断する方法として
歩行速度1m/s未満、握力男性25kg,女性20kg未満、BMI18.5未満
もしくは下腿周径30cm未満であればサルコペニアであるという診断基準利用することが挙げられます。
これらの条件を満たしサルコペニアと判断した場合、
臨床での介入としてはレジスタンストレーニングや分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含む栄養剤の摂取などが有用です。
※レジスタンストレーニング:筋力トレーニングのこと。1次性サルコペニアの場合、
最大負荷量の80 %以上の高い強度での運動が推奨されている、また最大負荷量の40%〜70%
程度の強度でも反復することで同等の効果があるとされている。
加齢以外が原因のサルコペニアの場合は禁忌となるため注意が必要である。
長期臥床や麻痺による不動化などで筋萎縮が起こることを廃用性筋萎縮と呼びます。
組織学的にはサルコペニアと同じく筋原繊維の減少、筋繊維径が起こりますが、
廃用性筋萎縮の場合は遅筋と呼ばれるタイプⅠ繊維の減少を多く認めます。
臨床での対応としては筋肉に抵抗負荷をかける機会をできるだけ多く作ることが重要です。
特に、活動性の低い麻痺側に対していかに抵抗負荷をかけるかがポイントですが、
シンプルな方法として座位や立位などの姿勢で重力による刺激を入れることが確実です。
そういった訳で発症後の早期離床や早期歩行は非常に大切であるといえます。
またその他の方法としてはTESなどの電気刺激を利用し抵抗負荷をかけてアプローチする場合もあります。
脳卒中の場合、この原因が第一に挙げられます。
筋繊維を収縮するために、脳からの指令が脊髄の前角細胞まで届き、
複数のα運動ニューロンを発火(発動)させます。
1つのα運動ニューロンは筋繊維を複数支配(運動単位)しており、
α運動ニューロンが発火すると筋繊維の収縮が起こるメカニズムとなっているのですが、
脳卒中になると脊髄前角細胞のα運動ニューロンを発火させることが難しくなり筋力低下を招きます。
この神経原性、脳卒中の筋力低下は以下の種類に分かれます。
・運動単位の動員数の減少:脊髄レベルでの調整、動員数が減ると筋力低下
・α運動ニューロンの発火頻度の減少:脳幹レベルでの調整、頻度が低いほど筋力低下
・運動単位の活動するタイミング不良:運動単位同士のタイミングがずれると筋力低下
臨床でどのように活用するかというと、
筋力低下を認める場合に運動麻痺の改善を図りながら筋力向上を行う際に、
ただ闇雲に行うのではなく、筋肉の同じ場所に何回も刺激を入れる方法(発火頻度の改善)や
同じ筋肉でも位置を変えて刺激を入れる方法(運動単位の動員数改善)など、
どの方法が良いか使い分けることによって筋力向上を効率的に図ることができるようになります。
筋力低下しているから、筋力トレーニングをしよう、
と進める前に、何が原因で筋力が低下しているのかを判断することで、
効率的な筋力トレーニングを行うことができます。
日々の臨床の中で、是非考えてみる機会を作ってみてください。
お読みいただきありがとうございました。
CCRA代表 福田俊樹