前回のリハビリで良い動きができるようになったけど、
今日リハビリに入った時には元通りになっていて、また同じ所から介入する。
臨床で誰しもが一度は通る道だと思います。
どうすれば改善効果を持ち越して積み重ねていけるでしょうか。
今日は運動学習、特に慢性期の脳卒中後遺症者に対して
特異的な内容を織り交ぜながら紹介していきます。
急性期と慢性期では学習の仕方が変わってきます。
急性期は後遺症によって大きく身体の変化が起こった後、
その新しい身体の状態に合わせて動作を学習していくことになります。
この新しい事を学習する際には小脳-運動前野が大きく関与します。
その後、徐々に学習が進むにつれて
何も考えずに動作ができるように、
慢性期では手続き記憶として運動情報が貯蔵されていきます。
自転車に乗る際、ペダルに対して足の位置や漕ぐ時の上半身のバランスなど
1つ1つ意識せずとも何も考えずに乗ることが出来ます。
同じように起き上がりや歩行など、
活動のベースとなる基本動作に関しても
手足をどのように動かそうと意識せずとも自然と動くことが出来ます。
これら運動の情報は手続き記憶として脳内に保存されており、
動く際に、手続き記憶を基にして運動の計画が立てられて、実際の動きが行われます。
手続き記憶には幾つかの分類がありますが、
これら運動に関してのスキルの貯蔵は大脳基底核が中心に関わっていると言われています。
慢性期の脳卒中後遺症者の基本動作は
試行錯誤の中で形成されて、手続き記憶化され、無意識に実行しています。
この無意識化された状態を変えるため、
つまり学習をする上で一番大切なことはエラーに気づくことです。
エラーに気づかないと今の動き方を修正する動機とならないからです。
ここから臨床寄りの話を行なっていきます。
エラーを気づく為に必要なことは何が正しいか、
間違っているか判断する為に「基準」を設けることです。
例えば立位で骨盤が麻痺側に回旋して引けている状態を、
正中に調整する介入を目指す場合、
介入前に麻痺側の大腿骨頭に対してかかってくる圧(上半身の重み)が
どんな状態かを感じてもらいます。
その後介入を行い、介入後の圧を感じてもらい、
開始時の圧に対してどの様に変化しているのか、
また立ちやすさがどの様に変わったかを確認してもらいます。
開始時に基準を設けることで、実施後に+か−かを判断できる様になる訳です。
今回の例の場合では基準を設けていなければなんとなく立ちやすくなったけど、
なんでそうなったかが分からないということで学習は進みませんが、
基準を設けた場合、大腿骨頭にかかる圧の影響が
立ちやすさに影響するということに気付きますので、学習が進んでいきます。
圧の変化を挙げましたが、股関節の屈伸角度(深部感覚)や鏡を使って
骨盤の回旋の確認(視覚情報)なども運動の符号化としては成立します。
ただ学習をうまく進める為には一考の余地があります。
訓練中に学習を進めるために必要な外在的フィードバックは
KPとKRの2つに分かれています。
KP(knowledge of performance)はパフォーマンスに対してのフィードバックです。
例えば、もう身体を右に回して、やおへそを突き出しましょうという内容です。
KR(knowledge of result)は結果に対してのフィードバックです。
例えば立つことができたか、歩行のタイムがどうであったかという内容です。
それぞれの特徴としてKPは身体の内部に対して焦点を当て、
KRは外界の環境に対して焦点を当てています。
よって、体性感覚処理が苦手な方はKRを中心としたフィードバック、
視覚情報処理が苦手な方はKPを中心としたフィードバックを行うことが
運動学習を進める戦略として考えられます。
フィードバックにはもう1つ内在的フィードバックというカテゴリがあります。
自身の感覚情報によって得られるフィードバックのことです。
先の骨頭の圧覚、股関節の深部感覚、鏡での視覚情報などが当てはまります。
この際、視空間認知の問題がない限り、
一般的には視覚情報を用いることがフィードバックの方法として簡単です。
正面に鏡を置くだけで事足ります。
しかし、視覚情報によるフィードバックのみでは運動学習が進むことがありません。
何故なら、普段生活している環境に常に鏡がある訳ではないからです。
どの様な環境でもコントロールして活動できる様になる為には、
体性感覚に徐々にシフトをしていく必要があります。
視覚情報で骨盤の回旋を調整した後に、
その状態での骨頭にかかる圧(圧覚)や
股関節の屈伸角度(深部感覚)がどの様に変化しているのかを
変換していくことで運動学習が進みます。
フィードバックの使い方として初めは外在的フィードバックで気づきを作り、
徐々に内在的フォードバックに移行する、
またフィードバックの量も徐々に減らしていくことで
学習が進みやすいと言われています。
慢性期における運動学習を進めるヒントを紹介しました。
訓練を行い、改善が得られたことに対して、
どの様な種類の知覚がスムーズかを判断し、それを用いて符号化を行い、
日々の活動をしてもらう。これを繰り返すことで、
改善を積み重ねていくことが可能です。
まずは日々自分の介入の一つ一つを患者さんが
どの様に感じているか、知るところから始めてみましょう。
お読みいただき有難うございました。
CCRA代表 福田俊樹