小脳の病変によって引き起こされる失調症状。
運動の大きさを制御できない測定異常や反復運動の速度やリズムの制御も困難となってしまう、
また運動の終了時に止めようとした時に起こる振戦、企図振戦などが生じます。
運動麻痺とは異なり、随意的にある程度動かせるにも関わらず
コントロールをすることが非常に困難でどんな介入をすれば良いか悩むことも多いと思います。
本日はこの小脳性運動失調のメカニズムを紐解くことで介入のヒントを探っていってみましょう。
昔からよくある介入方法として、重錘をつけたり、弾性包帯を巻いたりした状態で運動する方法があります。
これらが方法として挙げられる理由は一体どうしてかは知っていますでしょうか。
重錘をつけた場合では、錘によって筋紡錘から小脳への固有感覚受容器による入力が増大し
運動制御に有利に働くと言われており、
弾性包帯では四肢や体幹の動揺を抑制し、重心位置のコントロールをサポートすると言われています。
その他で有名なものといえばフレンケル体操があります、
関節運動の反復を視覚を利用しながら行う事により協調的な動きを促通するというものです。
これらの3つの方法は失調症状を改善する報告などは散見されるものの、
実は有用なエビデンスとなっていないのが現在の状況です。
そこで、症状自体のメカニズムを掘り下げる事によって他にどのような方法があるか探ってみましょう。
小脳といえばフィードバック機能が有名です。
運動の遂行時に視覚や体性感覚の情報を参考に運動を修正し、より適切な運動を行うという機能です。
失調の症状についてもそのフィードバック機構の問題によって出現していると考える方は多いようです。
上記の伝統的なリハビリに関しても体性感覚情報や視覚情報の入力を増やして、
つまりフィードバックされる感覚の量を増やして運動制御の改善を図っています。
しかし、失調はそんなに単純なものではありません。
入力される感覚情報量も勿論大事なものですが、他に目を向けなければいけないものがあります。
全身に筋肉がいくつあるかというと600程存在し、
その中で随意的にコントロール可能な筋肉は400程あると言われています。
我々が動作を行う時に、これら全ての筋肉をどのように組み合わせてどんなタイミングで活動させるかを
動作ごとに脳で使令を作ろうとすると膨大な量になってしまい動作が遅れや、脳がオーバーヒートを起こすことでしょう。
そこで、動作を行う上で「内部モデル」というものが存在します。
運動の指令と筋肉の活動を相互を変換することが可能なモデルで動作毎に存在します。
この内部モデルを用いることで動作に合わせて筋肉をどの様に活動されるか自動的にシュミレートされ、
その予測した内容に応じて筋肉が働き身体が動きます。
内部モデルでは他に重要な役割があり、働く筋肉の組み合わせから実際にどの様な運動になるかを
予測する機能も存在しています。
延髄にある下オリーブ核ではこの内部モデルの情報と運動によってフィードバックされた感覚情報の誤差を検知して、
運動の修正を行う訳です。この運動の修正とは内部モデルの修正を示しており、即ちフィードフォワード機構とも呼びます。
フィードバック機構の限界は速度です。視覚や体性感覚情報処理を行う上で30-100msec時間がかかります。
なので、早く滑らかな運動には対応できません。
フィードフォワード機構は予測されたデータを元に運動を行うため素早い運動に対応可能です。
基本的に失調はこのフィードフォワード機構の破綻によって生じます。
予測してスムーズな動きができない為、勢いよく動いてしまい、
それをフィードバック機構で制御しようとすると制御のタイミング遅れてしまい過剰な動きとなってしまう。
これが失調症状で良くみられる振戦を引き起こしています。
視覚、体性感覚入力を増大させる伝統的な方法に加え、
フィードフォワード機構、内部モデルに対しての介入も1つの方法として考えるとより幅が広がります。
内部モデルとは運動指令と筋肉の活動の相互変換です。
例えば他動で肩や肘関節を動かした時の手の位置がどこにあるか、
股・膝関節を動かした時に足の位置がどこにあるかなど、知覚要素に対して評価・アプローチを行うことなども
内部モデルを修正する良いトレーニングになるかもしれません。
内部モデルを紐解くとさらにいろんなアイディアが湧いてきますので、ご興味がある方は調べてみてください。
小脳性運動失調についてメカニズムを掘り下げて介入方法を検討してみました。
教科書や文献に載っている介入方法はどの様な意味があるのか、病態のメカニズムはどうなっているのか、
掘り下げて行くと新しい発見があるかもしれません。
お読みいただき有難うございました。
CCRA代表 福田俊樹