脳卒中リハビリにおける運動療法の基本

2020年09月20日 福田俊樹

リハビリの基本となる運動療法。

脳卒中のリハビリにおいてブリッジ運動やキッキング、上肢の挙上運動や起立・着座の運動など、

単関節のものから多関節、機能的な要素が強いものから動作的な要素が強いものまで

多種多様なものがあると思います。

 

例を一つ挙げるとブリッジ運動は背臥位にて膝を立てお尻を持ち上げる運動で

主にお尻を鍛えるために使用されることが多いです。

 

この時の「鍛える」という表現は筋トレとの違いは何か説明できますでしょうか。

筋トレとして行うブリッジ運動と、脳卒中リハビリの運動療法として行うブリッジ運動では

それぞれどんなやり方、意識を持って取り組むべきなのか。こちらを紐解いていきましょう。

 

筋力トレーニングとは

まずはシンプルな筋力トレーニングについて確認します。

運動をすることによって、筋線維の損傷を引き起こし

その後の修復過程にて筋肥大が起こります。これにより筋出力の増大が図れます。

 

また、低負荷で高頻度のトレーニングなどでは筋内のミトコンドリア量を増やし、

筋持久性を高めることも可能です。

 

どちらの内容においても基本的に末梢の筋肉に対しての介入ということになります。

脳卒中リハビリの場合では2次的な廃用性の筋力低下や予防に対してや

非麻痺側や体幹に対して行うことが多いです。

 

一方で脳卒中により一次的な後遺症である運動麻痺などに対しては

末梢の組織が原因では無いので適応していないと言えます。

 

中枢による筋肉のコントロール

そもそも中枢神経はどのように筋肉をコントロールしているのでしょうか。

 

末梢部から順に辿っていくと、末梢の筋繊維は脊髄前角にあるα運動ニューロンによって支配されています。

このα運動ニューロンは1つで複数の筋繊維を支配しているため

筋活動はα運動ニューロンの働きによって左右されます。

 

1つのα運動ニューロンとその支配している筋繊維群は

運動を起こす際の最小単位であるため、運動単位と呼びます。

 

中枢からの指令は皮質脊髄路をはじめ様々な下行性伝導路にて

脊髄前角のα運動ニューロン(運動単位)に送り筋肉のコントロールを行なっていますが、

この運動単位のコントロールは大きく2種類に分かれます。

 

運動単位の動員とサイズの原理

運動単位の動員とは中枢からの指令によってどれだけの数の運動単位を活動させるかという事です。

動員数が大きければ大きいほど筋活動は高まります。

 

また指令の内容に応じて遅筋線維を支配しているα運動ニューロンと

速筋線維を支配しているα運動ニューロンの動員を調整しています。

 

動員される運動単位には順番が存在し、

サイズの小さいものから動員されサイズの大きいものが最後に動員されます。

これをサイズの原理と呼びます。

 

持続的な活動を司る遅筋線維を支配しているα運動ニューロンはサイズの小さい運動単位で

速筋線維はサイズの大きい運動単位です。

 

針に糸を通すような巧緻動作では筋活動のわずかな微調整が必要です、

その際は比較的小さい筋活動で行なっている事でしょう。

逆に瓶の蓋が固くなっている時には目一杯力を込めますが、

この時に筋活動の微調整は必要なくいかにパワーを引き出すかが重要です。

 

この原理は中枢神経の影響を実は受けておらず、脳損傷を起こしていたとしても原理通りに働きます。

(脳がコントロールしているのは数であり、順序は脊髄レベルで決まる)

針に糸を通す時に勝手にパワーが強くなってしまうと難しいので、

自動的に自然と適切な活動になるように調整されている訳です。

 

運動単位の発火頻度

2つ目は発火頻度です。1つのα運動ニューロンが発火する頻度を表し、

頻度が高いほど出力が安定し、頻度が低ければ一時的な出力となります。

筋活動が最大出力付近でない限り、この発火頻度が主として筋活動のコントロールを行なっています。

 
  
通常の筋力トレーニングでもこの中枢神経系の影響が大いにあり、

実は筋力トレーニングを行った場合、開始後の初めの4週間ほどは筋肥大を起こさず

運動単位の動員や発火頻度が変化することにより筋出力が増大しています。

 

ネットワークシステムとヘブ則

末梢の話から徐々に中枢へと遡っていますが最後に大脳の話をしていきます。

 

大脳や脳幹などから運動単位への指令は行われています。

 

一次運動野から錐体路を通って脊髄前角へ、と単純な一本道ではなく

神経細胞が複雑にシナプスし促通や抑制と様々な指令がα運動ニューロンへと伝達され

全てを統合した結果、筋活動が起こっています。

 

この神経細胞がシナプスしあって作られているネットワークシステムですが、

同じルートを何回も反復して電気信号が流れると、そのルートのシナプス応用が増大します。

これをヘブ則と呼び学習・記憶の基礎現象と言われています。

 

このヘブ則の理論に沿って、

適切な動作を反復して行いシナプス増強し動作を学習していくことが中枢神経系の運動療法です。

 

ブリッジ運動はどのように行えば良いのか

いよいよ冒頭の話に戻ります。

末梢の筋繊維が対象では無く、脳内のシナプスが適切に働けば良いということですので

 

筋出力の強さでは無く、いかに必要な筋肉が働いているかが重要です。

 

例えば立位でお尻が引けているので臀筋を活動させようとした場合、

ブリッジ運動では臀部筋の収縮とともに体幹の前面筋・後面筋の両方が働いているか、

またハムストリングスも同時に活動しているかが

立位を保持する際に大事となってきますので、これらを確認します。 
 
 

患者さんには頑張ってもらうのでは無く、足の位置やアシスト量をこちらで修正しながら

上記の筋肉が協同的に働くやり方を一緒に探っていくのです。

 

全ての部位の筋活動が起き、かつ患者さんも楽にお尻を持ち上げることができれば、

そのやり方を反復していきます。楽に行えていると回数を30-50回程度行っても疲労感が無いはずです。

もしある場合は足の位置やアシスト量を調整する必要があります。

 

よく反復運動で回数を数えることがありますが、

基本的には楽に動かせるやり方を見つけてから行うと良いでしょう。

シナプスの増強では無く、ただ回数をこなすだけになってしまうかもしれません。 

 

頑張らずに回数をこなせるように患者さんと良い動き方を探っていきましょう。

 

まとめ

脳卒中の運動療法の基本についてお話をしてきました。

 

身体を動かすメカニズムを知ることによって、同じ運動をしたとしても

運動療法のクオリティは段違いとなってきます。

 

ネットワークシステムについては細かくは触れませんでしたが、さらに掘り下げていくと、

よりクオリティは上がりますのでぜひご興味ある方は調べてみてください。

 

お読みいただき有難うございました。

 

CCRA代表 福田俊樹