一次運動野が損傷しても随意運動は可能である

2020年09月06日 福田俊樹

脳卒中の後遺症で最も良く出る症状である運動麻痺、

手足の随意的な運動が困難になる症状です。

 

その随意的運動を制御している代表的な神経伝導路は皮質脊髄路や錐体路と呼ばれ、

一次運動野がその代表的な起点です。

 

本日は皮質脊髄路と錐体路の違いを紐解きながら随意運動を可能とする神経伝導路についてお話します。

 

随意運動について

脳卒中のリハビリでまず随意運動が今後出来るようになるか脳画像を確認すると思います。

その際にチェックする所は一次運動野-放線冠-内包後脚-大脳脚中央-錐体が代表的でしょう。

 

特に上位中枢である一次運動野は損傷が大きければ運動麻痺が重度で回復の可能性が乏しいと判断され、

回復期では機能的な練習よりもADL獲得の為の動作練習や環境調整がより多くなります。

 

皮質脊髄路と錐体路の違い

どちらも随意運動を司る神経伝導路ですが、少し意味合いが異なります。

神経伝導路の役割を判断するコツは簡単で「名前」です。

 

皮質脊髄路は文字通り皮質と脊髄を結ぶ路で、皮質から脊髄前角細胞へ直接投射する伝導路となっています。

 

錐体路は錐体を通る路です。

簡単にいうと錐体を通る下行性伝導路(中枢から末梢への伝導路)であれば錐体路ということになります。

機能的にはその中で直接脊髄に投射しているもの(皮質脊髄路)もあれば、

皮質下の領域を経由して間接的に脊髄に投射しているものもあります。

 

さて、ここで考えていきたいのは

随意運動の下行性伝導路は「皮質脊髄路」「錐体路」などであり

「一次運動野脊髄路」というものは存在しません。

つまり一次運動野は随意運動に必須では無い可能性があります。

 

拡散テンソルトラクトグラフィーで見る皮質脊髄路

以前から神経の通り道、神経伝導路は死後の標本解剖や生物学的手法によって

明らかになっていましたが、CTやMRIでは捉えることは困難でした。

 

そこで出てきた手法が拡散テンソルトラクトグラフィーとです。

MRIの技術、画像解析技術の発達により、生存している人間の神経伝導路を捉えることが可能となりました。

 

皮質脊髄路に関しての報告(Seo and Jang 2013年)では

・ 一次運動野由来 36.9%

・ 一次体性感覚野由来 31.7%

・ 補足運動野由来 24.7%

・ 背側運動前野由来 6.7%

 

と一次運動野以外の皮質からも多くの繊維が出ていること、

また一次体性感覚野ではほぼ一次運動野と同等の繊維が出ていることがわかります。

 

臨床でのポイント

以上より幾つか考えられることは

一次運動野の損傷が大きくても随意運動が改善する可能性はある

 

逆に、一次運動野の損傷が少なくても随意運動が困難になる可能性は十分にある

ことは念頭においておくと良いと思います。

 

また身体の部位ごとに一次運動野由来の繊維の割合がとても高い所は実は存在しており、

例えば母指などが代表的です。

 

ですので私は上肢機能の予後予測する際には必ず母指の動きをチェックしています。

 

まとめ

随意運動に関連する伝導路について紹介してきました。

 

あまりにも有名である伝導路ですが、よくよく掘り下げると知らなかったことなどあったかと思います。

日々当たり前に使っている用語や概念などを改めて見返すと新たな発見が他にもあるかもしれません。

 

お読みいただき有難うございました。

 

CCRA代表 福田俊樹