脳卒中後の症状として
といった中枢神経由来の症状
それとは異なる
といった非神経由来の問題
これらの問題点は明確に分けてアプローチを行う必要があることは周知の事実であり、単純な反復動作では、どちらの問題にも効果が期待できないことは想像に難くないでしょう。
何故なら、神経由来の問題であれば、その伝達を改善するためのシナプス形成(神経可塑性由来による)を期待するため、モチベーション、やる気といった情動的な部分の活動が必須になりますし、非神経由来の問題においてはこのような報告が随分前にあるくらいです。
1991年、アメリカ・ルイジアナ州立大学医学センターにて「大腿四頭筋が収縮する感覚をイメージして下さい」という指示を受けて被験者は30分間のイメージトレーニングを行いました。4日間のイメージトレーニンを終え、被験者の大腿四頭筋の筋力が計測されました。その結果、イメージトレーニングをしていない被験者と比べて、イメージトレーニングを行った被験者は、12.6%の筋力の増強を示しました(Cornwall MW, 1991)。
この報告からも分かるように、単調な動作訓練では最大効果を得ることは難しいのが分かります。セラピストが介入してのハンドリングや適切な言葉掛けが、如何に能力を引き出すことに繋がるかは精神論ではなく根拠としてもあるわけです。
リハビリテーションは、1単位20分という時間が設けられており、その時間内で最大効果を提供することがセラピストである我々の責務です。
中には「このメニューをしていてください」とセラピストが患者から離れる施設もあると聞きます。マンパワー、時間配分の問題は分かりますが、国民皆保険制度の根幹は「誰がどこでも同じような医療を受けられる」ことであり、その内容で同じように算定がなされていることに疑問を抱かざるを得ません。まして「徒手的な介入では患者さんのやる気を削ぐから」という理由で触らないことを推奨している施設については、個人的な見解になりますが理解に苦しみます。
話を戻しましょう。
これは一項目の問題ではなく、多様な問題が複雑に絡み合っている中の一つとして捉えるべきです。筋力低下が起こっている場合、十中八九可動域制限や廃用性の問題が絡み合っています。
その状況で筋力トレーニングを行っても、期待していた効果が得られないことは往々にしてありますし、読者の方々も良く感じるのではないでしょうか?むしろ筋緊張が高まって、効率的な動きを阻害しているケースも多いような気がします。
その理由の一つが、神経由来の問題と非神経由来の問題を分けて考えていないからです。
例えば、立ち上がり動作で考えてみましょう。
立ち上がりにおいて重要なシーンは、殿部が離床して足底に支持基底面が移行するタイミングです。この時前脛骨筋の働きによって足部の安定性が高まり、前方への重心移動と殿部離床が同時に可能となります。
しかし、この時麻痺側の足関節底屈筋(腓腹筋・ヒラメ筋等)の過剰な緊張によって足部が安定しない場合、立ち上がり動作は効率よく行えるはずがありません。このような患者におけるプログラムは「中枢神経由来の足関節底屈筋へのアプローチ」が選択されなければならないでしょう。
しかし臨床場面では…
といった声掛けや、患者の液果を持って引き上げるような介助をしているケースが見受けられます。介護士の方やご家族がするのならまだ理解できますが、リハビリのプロである療法士が、実際の治療場面で身体機能を度外視した介入をし、結果筋緊張を高めて画一的な動作しか獲得できない患者さんがいるということに、危機感を感じざるを得ません。
だからこそ臨床に出てからの学習が必要なのです。学生時代に学んだ知識と実際の臨床場面での出来事を線で結び、適切な治療ができる療法士教育は、実際の現場だけでは追い付きません。
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そして、先程の立ち上がりに戻りますが、前脛骨筋が働こうにも足関節の可動域制限があった場合、その安定化機能は使うことが出来ないでしょう。距腿関節、距骨下関節の包内運動を促し、滑らかな距骨の滑り込みが出来る足関節内の空間があるからこそ、前脛骨筋は適切に収縮することが出来ます。
近年における慢性脳卒中者患者の麻痺側筋力の見解は、運動療法により優位に改善し、各種能力の改善も期待できるとされています。しかし、上記のような状況ではトレーニング効果は期待できないのは説明の通りです。
これら一連の流れを脳卒中リハビリテーションの中では組まないといけません。単調な動作の繰り返しを強いるセラピスト、患者の心的状況を顧みない言動をしているセラピストは、今後更に居場所が無くなっていくやもしれません。
それでは最後まで読んでいただけて感謝です。
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脳卒中包括的リハビリテーションアプローチ
認定インストラクター 九州地区 理学療法士
福留良尚
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