機能局在論のその先へ

2019年12月29日 福田俊樹

脳のことが苦手な方でも耳にしたことがあるブローカ野、

ご存知失語の責任病巣です。

 

ブロードマンが大脳皮質の神経細胞を染色し、

組織構造別に区別して1から52までの番号を振ったブロードマンの脳地図はとても有名です。

 

もう一つ、ペンフィールドのホムンクルスも必ず目にしたことがあるでしょう。

手や口がやたら大きいアレです。

脳に直接電気刺激を行い脳どのエリアがどんな役割をしているかが分かってきました。

 

これら偉大な先駆者の方々のおかげで「機能局在論」が一般化しました。

 

有名なものとして4野が一次運動野、3野が一次体性感覚野などあり、

例えば一次運動野が損傷すると運動指令が出せず運動麻痺になるのだな、

と脳の部位ごとに役割が決まっている説です。

 

中枢神経系のリハビリを行う上で戦略を立てやすく、とても有用なのですが、

最近の医療の発達により、また形も変わってきています。

 

本日は機能局在論のその先についての話をしたいと思います。

 

局在論と全体論

脳に関する研究では主にこの2つの論があります。

脳の部位に応じて役割が決まっている局在論、部位で区別せず全体で活動している全体論、

今回のタイトルの機能局在論はもちろん、局在論となります。

 

どちらが優勢な説なのか

全体論の裏付けの一つとしてダイアスキーシスが挙げられます。

ダイアスキーシスとは日本語だと遠隔機能障害と呼び、

損傷部位とは離れた部分の脳機能不全を起こす障害です。

 

この障害はMonakow氏によって1910年に定義されました。

脳は絶妙なバランスで構成されており、衝撃が加わると、

バランスが崩れ脳の他の部分に影響を及ぼすというものです。

衝撃が小さいと時間経過とともに回復し機能的に回復すると言われています。

 

機能局在論とは真っ向から反対の内容であり、臨床上はありうることだと認識されていました。

 

しかし、この「バランス」というものを証明できず、

一方では先に述べたブローカ、ペンフィールド氏の研究により

局在論が中心となり脳の研究が発展してきました。

 

医学の発展

1990年代に入ると、脳の研究が加速的に進みました。

代表的なものはfMRIでしょう。脳の血流動態を見ることで脳内の活動をイメージングでき、

今まで確認することができなかった脳内の活動を観察することができるようになり、

 

また画像の解析方法も脳全体を三次元のピクセル(ボクセル)として解析できる方法が開発され、

場面ごとの脳全体の活動を解析できるようになりました。

 

これらの発展により

今まで見ることができなかったネットワークシステムが明らかになってきました。

Monakow氏の「バランス」をついに捉えることができたのです。

 

代表的なものとして

・デフォルトモードネットワーク:安静時に活動、無意識下での空想や想像に関与している

・背側注意ネットワーク:能動的に注意を払っている時に活発になる

・腹側注意ネットワーク:受動的に注意を払っている時に活発になる

などが挙げられています。

 

このネットワークシステムの発見により、

全体論を支持する風潮が2000年以降は高まってきています。

 

医学の限界

2020年現在、全体論が正しいか、というと未だはっきりしていません。

 

・脳全体が一つとして活動する動作の原理が判明していない

・fMRIでは神経活動が起こってから1-3秒たった後の状態しか評価できない

など種々の解決すべき課題があります。

 

まとめ

今回は脳機能研究の話でしたが

その他の分野でも医学の発展ともに、様々な変化が起こります。

 

昔はベッドで安静が基本だったはずが、

今では可能な限り早く離床してもらうことが基本となっています。

 

今が定説なことが未来には変わっているかも知れません。

 

セラピストにとって知識、技術は非常に強い武器です。

ただ、放っておくと錆びついてしまいます、常に研鑽していく必要があります。

 

あと、もう一つ大事なことは患者さんが何に困っているか、どうなっているか、

目の前で起こっている現象を捉えることです。

 

良く見て、良く聞き、良く触る必要があります。

武器の使い方を間違えないように。

 

お読みいただきありがとうございました。

 

CCRA代表 福田俊樹