発症後、時期別における神経可塑性のメカニズムのシリーズ最終回です。
第一回 →急性期における神経可塑性のメカニズム
第二回 →回復期における神経可塑性のメカニズム
損傷してしまった脳細胞は元に戻らないと長い間いわれてきました。
嗅球や海馬など一部の脳領域では神経細胞の新生が確認されていますが、
他の脳領域では確認されていません。
そういった背景から、中枢神経系のリハビリテーションは健側強化、筋力増強などを行い
残存機能を高めて活動レベルを向上させることが中心となって行われてきました。
ただ近年では、損傷してしまった脳細胞の代わりに周囲の脳細胞などで
新たにシナプス形成が行われ、脳機能の改善が図られる神経の可塑性というメカニズムが提唱されて、
現在では中枢神経疾患のリハビリテーションを行うにあたって周知の事実となっています。
最終回は慢性期において神経可塑性のメカニズムがどの様に働いているかを紹介します。
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急性期ではアンマスキングを用いた皮質脊髄路の再建が主に行われます、
回復期では再建した皮質脊髄路(随意運動)をより効率的に使う為に大脳皮質のネットワークの再編が行われます。
慢性期での神経可塑性ではこれらの再編したネットワークシステムの効率化が図られます。
再編したネットワークシステムの効率化とは、
回復期までに形成されたネットワークシステムを反復して使用していくことで、
そのシステム(神経回路)の反応が高まり、より洗練されていく状態です。
このような伝達効率の増強をHebb則(ヘッブの法則)と呼びます。
また、これが長期的に続くことを長期増強(LTP)と言われ、運動学習のメカニズムの一つとなっています。
ネットワークの効率化を進める上で重要な事は「回数」です。
必要なシステムの反応性を高めるには1日数百回の施行が必要だと言われています。
到底、慢性期でのリハビリ時間で賄えるものではありません。
そこで大事なのは日常生活の動作にいかに落とし込めるかを考える必要があります。
日々の動作の中で使用できることで、反復してシステムの利用が行え、効率化へと繋がります。
慢性期リハビリにおいて生活環境の聴取、動作方法の提示、
定着する為の自主トレーニングなどを意識して盛り込んでいくべきです。
半球間抑制、という現象があります。
脳の一側の半球を使用すると、対側の半球の活動が低下するということです。
慢性期での固定化された動作の中では恒常的に非麻痺側での活動量が高く、
この半球間抑制によって、障害側の半球の活動が低下しがちです。
※TMS(経頭蓋磁気刺激法)は刺激を与えることによって障害側半球の抑制を解除する働きがあります。
日常生活において、狙ったシステムのみを考えるだけでなく、
麻痺側全体の活動を促しような生活動作のアドバイスなどを行うことが、
システムの効率化を図る上でより良い関わりと言えるでしょう。
時期別の神経可塑性について3回に分けて紹介してきました。
神経可塑性はその他も考慮することが様々あり、神経栄養因子や薬剤の作用など分子生理学レベルでの話、
ペナンブラやダイアスキーシスなどの脳のシステムの話など、まだ別のコラムにて紹介していきます。
CCRA代表 福田俊樹