損傷してしまった脳細胞は元に戻らないと長い間いわれてきました。
嗅球や海馬など一部の脳領域では神経細胞の新生が確認されていますが、
他の脳領域では確認されていません。
そういった背景から、中枢神経系のリハビリテーションは健側強化、筋力増強などを行い
残存機能を高めて活動レベルを向上させることが中心となって行われてきました。
ただ近年では、損傷してしまった脳細胞の代わりに周囲の脳細胞などで
新たにシナプス形成が行われ、脳機能の改善が図られる神経の可塑性というメカニズムが提唱されて、
現在では中枢神経疾患のリハビリテーションを行うにあたって周知の事実となっています。
今回は神経可塑性のメカニズムが
急性期、回復期、慢性期それぞれの時期に応じてどの様に働いているかを紹介します。
そもそも神経細胞について復習しておきましょう。
神経細胞とは、細胞体、樹状突起、軸索から構成されており、働きとしては樹状突起で周囲の神経細胞から
電気信号を受け取り、細胞体を通じて軸索から他の神経細胞へ電気信号を送る仕組みです。
シナプスというのは軸索から他の神経細胞の樹状突起へ刺激が伝達されることを指しており、
多数の神経細胞との組み合わせで脳は様々な神経ネットワークを構築し、多様な機能・活動が行えるようになっています。
脳の神経細胞に損傷が起こると、その神経細胞が組み込まれていた神経ネットワークが破綻し、
神経ネットワークが担っていた機能・活動が困難になってしまいます。
冒頭に話した通り、脳の神経細胞自体が新生することは困難なので、
周囲の神経細胞などでネットワークの再編を図り、このことを神経の可塑性と呼びます。
神経の可塑性には種類があり
・ニューロンの軸索や樹状突起の変化
・シナプスの接続の変化
・神経伝達効率の変化
この中でも軸祭の変化量は大きい為、重要です。
軸索の変化自体にも大きく分けて3つ種類があります。
・再生:切断された軸索から軸索が伸張する
・再生発芽:切断された軸索の途中から側枝が生じる
・発芽:障害をうけていない軸索から新たな側枝が生じる
リハビリテーションによりこのような神経の可塑性が促されているということが明らかになっていますが、
神経の可塑性にはそれぞれ時期があり、例えば先ほどの発芽は発症後数週間の間に行われています。
つまり発症後の時期により神経の可塑性は異なった様相を示します。
例として運動麻痺に対しての神経の可塑性を時期別に紹介していきます。
発症後3ヶ月以内では皮質に損傷があった場合、もしくは皮質下に損傷があった場合、
いずれも残存している皮質脊髄路を興奮させることで皮質脊髄路の再編を促します。
神経細胞はその他多数の神経細胞とシナプスしていますが、通常使用しているルートとは別に、
不使用のシナプスが存在しています。
神経細胞の損傷後、この不使用のシナプスの伝達効率が増し新たな神経回路が再編されます(アンマスキング)。
皮質脊髄路を興奮させると、アンマスキングされていた神経回路が活性化します。
一次運動野由来の皮質脊髄路のエリアが損傷した場合、運動前野などの他の運動野と皮質脊髄路の間で
アンマスキングされていた神経回路が活性化し機能回復へと至るわけです。
アンマスキングは発症後数時間から2週間程度まで作用します。
つまり急性期では損傷を受けた皮質脊髄路の徹底的な賦活、
つまり麻痺側上下肢を用いた訓練課題の設定が必要となります。
ただ、必ずしも狙った通りの神経回路が再編されるとは限りません。
身体の反応を見ながら訓練課題の難易度が適切かどうか判断しながら行うことが重要です。
次回は回復期における神経の可塑性について紹介していきます。
CCRA代表 福田俊樹