上肢のリハビリテーション〜屈曲パターンを呈した症例〜

2019年03月09日 福田俊樹

入院中のリハビリはADLの自立をいかに早く達成するかが目標となり、

麻痺側上肢のアプローチよりも片手を使わずに動作を獲得できる訓練や

利き手交換などを進める選択肢が優先されがちです。

 

その分慢性期にて上肢の機能的なリハビリテーションを希望する方が増えてきている印象ですが、

上肢のリハビリテーションについて様々なテーマから考えてみようと思います。

本日は屈曲パターンを呈す症例に関して紹介します。

 

麻痺側上肢が屈曲する理由

介入をする前に、原因を知ることがアプローチの糸口となります。

 

ウェルニッケマン肢位に代表される様に、

上肢が屈曲位で固まってしまう、

または動作時に屈曲パターンを呈す場面は良くみかけますが、

なぜ屈曲位になってしまうのでしょう?

 

脳から筋肉に対して指令を出す際の神経の通り道を下降性伝導路と呼びます。

この下降性伝導路は様々なタイプがあり、それぞれ役割が異なっています。

 
代表的なものは
 
・皮質脊髄路:随意運動

 
 
その他には
 
・網様体脊髄路:姿勢制御・全身の伸展活動、屈曲活動
 
・前庭脊髄路:姿勢制御・全身の伸展活動
 
・赤核脊髄路:上肢の屈曲活動

などがあります。

 

これらの伝導路の配置を見ますと、

皮質脊髄路は大脳半球から、その他は脳幹から起こっていることがわかります。

 

つまり脳の損傷が起こる=皮質脊髄路のダメージが生じやすいが、

その他の伝導路はダメージが生じにくいということです。

 

そうすると脳の損傷があった場合、

筋肉をコントロールするには生き残っている神経伝導路で補わなければならず、

赤核脊髄路の活動が増し上肢屈筋が優位になる可能性が考えられます。

 

屈曲しない様にするには

上肢筋をコントロールしている部分が赤核脊髄路が主になると屈曲パターンが強く出ると想定すると、

ただ屈曲している筋肉をストレッチするだけでは解決できない事がわかります。

 

解決するには赤核脊髄路以外の神経伝導路を用いて

屈曲しないパターンでの姿勢保持・動作を獲得する必要性があるという事です。

 

これらの介入を行う為にはまずはどの姿勢や動作で屈曲パターンが強まるか、

どの姿勢・動作であれば屈曲パターンが軽減するかをまず評価していきます。

 

具体的には座位、立位、臥位の姿勢の中での違い、

また、座位の中でも体幹を屈曲した際、伸展した際、

左右に体重を移した際、左右に回旋した際の中での違いを判断します。

 

評価した中で屈曲パターンが出てしまう場面での

姿勢・運動コントロールの介入を行うことで不必要な屈筋の活動を抑制できる様になります。

次によくある例から実際どのように介入するか考えてみたいと思います。

 

腕を浮かした際に屈曲してしまう場合

字を書く、歯を磨くなど上肢を使う際には殆どの場面で腕を浮かします。

腕を浮かした際に、屈曲パターンが強く入ってしまう場合も多いです。

 
腕を空中に保つために体幹に対して肩甲骨が安定し、安定した肩甲骨があることで、

肩周囲筋の活動が高まります。

 

体幹と肩甲骨(肩甲骨周囲)、肩甲骨と上腕骨(肩関節周囲)それぞれで活動が高まらない場合は

上腕二頭筋などをはじめとした上肢屈筋群が過剰に働き、屈曲パターンとなってしまいます。

 

よって、屈曲パターンから脱却するためには、

肩甲骨周囲筋の活動、肩関節周囲の活動を高めていくことが一つの介入方法です。

 

・肘を曲げた状態で腕の上げ下げを行う

肘を伸ばして行うよりも肩周囲にかかる負荷は少なく、体幹や肩甲骨周囲筋の活動を

高めやすい練習です。

 

・箱の上に手を乗せる

次に机の上にティッシュ箱を置き、腕を可能な限り伸展した状態で箱の上に手を乗せます。

手が落ちないように保つことで肩関節周囲の活動を高めることができます。

 

その後ボールに変更するなど、徐々に不安定なものに変更していくことによって

腕を空中で保つためのより実践的な活動パターンの学習を行うことができます。

 

まとめ

上肢のリハビリテーションとして良くみかける屈曲パターンについて

紹介しました。なぜ屈曲パターンが起こってしまうのか、

考えていくことで介入の糸口が見つかります。

 

お読みいただきありがとうございました。

 

CCRA代表 福田俊樹