回復期における神経可塑性のメカニズム

2018年10月14日 admin_ccra

前回は急性期における神経可塑性のメカニズムを紹介しました。

急性期における神経可塑性のメカニズム

 

損傷してしまった脳細胞は元に戻らないと長い間いわれてきました。

嗅球や海馬など一部の脳領域では神経細胞の新生が確認されていますが、

他の脳領域では確認されていません。

 

そういった背景から、中枢神経系のリハビリテーションは健側強化、筋力増強などを行い

残存機能を高めて活動レベルを向上させることが中心となって行われてきました。

 

ただ近年では、損傷してしまった脳細胞の代わりに周囲の脳細胞などで

新たにシナプス形成が行われ、脳機能の改善が図られる神経の可塑性というメカニズムが提唱されて、

現在では中枢神経疾患のリハビリテーションを行うにあたって周知の事実となっています。

 

今回は回復期において神経可塑性のメカニズムがどの様に働いているかを紹介します。

 

大脳皮質のネットワーク

急性期で皮質脊髄路を可能な限り活動的にしたあとは、

有効に皮質脊髄路(随意運動)を使えるように、運動の指示を出すまでのメカニズムの改善を図ります。

つまり大脳皮質のネットワークの再編が行われます。

 

大脳皮質のネットワークとは前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉間の連携です。

視覚や体性感覚、聴覚などの感覚情報は末梢の受容器から後頭葉、頭頂葉、側頭葉にそれぞれ入力され、

頭頂葉や側頭葉の連合野と呼ばれる部分にて情報が集約され認識されます。

この情報が前頭葉に投射され、運動プログラムを作る土台となり、運動の実行に至るわけです。

 

皮質間抑制

脳血管障害にて皮質間の結びつきが破綻された後、

損傷を受けていない皮質の領域や皮質同士を結ぶ連絡繊維を用いて、

新たなネットワークを作ることになりますが、その為には皮質間抑制の解除が必要です。

 

神経細胞同士は網の目のように結びついていますが、状況に応じて適切な神経回路が働くには

網の中で狙った紐だけが反応しなければなりません。

その為、周囲の紐(神経回路)が反応しない様に通常は抑制がかかっているわけです。

前頭葉や頭頂葉など皮質間における抑制を皮質間抑制と呼びます。

 

発症後3ヶ月をピークにこの皮質内抑制が解除されます、

解除されることにより、網の目の結びつきの中で利用していない紐を選択することができ、

神経回路が再編されるわけです。

 

発症後6ヶ月にはこの皮質内抑制がまた働き出すので、

大体回復期に入院中の間はこの大脳皮質のネットワークを再編することを意識した方がよいでしょう。

 

回復期における神経可塑性を踏まえた介入

ただ反復運動を行うだけでは皮質ネットワークの再編は起こりません、

再編する為には、現在どのネットワークが損傷し、どのネットワークが使えるかを考える必要があります。

 

例として、視覚情報にて姿勢や運動制御を行うネットワークの損傷がある場合、

体性感覚を用いて姿勢や運動制御を行うネットワークを用いて、

カバーができる様にしていくなどです。

 

急性期の際と同様に、必ずしも狙った通りの神経回路が再編されるとは限りません。

身体の反応を見ながら訓練課題の方向性や難易度が適切かどうか判断しながら行うことが重要です。

 

次回は慢性期における神経の可塑性について紹介していきます。

CCRA代表 福田俊樹